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東京地方裁判所 昭和43年(ヨ)2327号 判決 1969年6月04日

申請人

今村育治

代理人

山花貞夫

外二名

被申請人

株式会社村山製作所

代理人

万野光彦

主文

申請人が被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位を仮に定める。

被申請人は申請人に対し金二〇〇、〇〇〇円並びに昭和四四年四月一五日から同年八月三一日に至るまで一ケ月金三五、〇〇〇円の割合による金員を仮に支払え。

申請人のその余の申請を棄却する。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

一、申請人

申請人が被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位を仮に定める。

被申請人は申請人に対し昭和四二年一〇月三日から本判決確定に至るまで、一労働日につき金一、四〇〇円及び一ケ月につき金三、〇〇〇円の割合による金員を仮に支払え。

申請費用は被申請人の負担とする。

二、被申請人

本件申請を却下する。

第二  当事者双方の事実上の主張<省略>

第三  疏明<省略>

理由

一申請人の申請理由第一、二項の事実(編注、雇用契約の成立及び労働条件)並びに被申請人の抗弁事実(編注、解雇の意思表示)は当事者間に争いがない。

二<証拠>によれば次の事実が疎明される。

申請人は被申請人会社へ入社するに際して、会社を事実上総括していた岸本市郎との間で労働条件を話合つたが、その結果残業手当は労働基準法の基準どおりに出す他、出張手当、交通手当も支給し、健康保険、失業保険にも加入させるということを双方で取決めた。しかるに会社においては、休憩時間も充分でないばかりか、勤務終了時間も一定せず、加えて残業手当が労働基準法どおり支給されなかつた。しかるところ、申請人が昭和四三年一〇月三日、同年九月分賃金を受取つたところ、残業手当を支給されなかつたため、この点を岸本市郎にたしかめたところ、同人は初めは静かに応待していたが、そのうちに激昂して申請人のえり首をつかみ「きさまは会社を何だと思つているのか」「文句を言うならやめろ」などと激しい言葉を浴せ、遂にはその場で申請人を解雇する旨言渡したことが認められ、この認定に反する疎明はない。

このように、労働者の基本的な労働条件に関する話合いのなかで、一時の興奮にかられた岩本市郎が申請人に何らの非違がないにもかかわらず、思いつき的に解雇の挙に出たものであることからすると、本件解雇のきつかけはあまりにも些細なことであることである。一方、申請人にとつてみれば、これにより予想もしなかつた職を失うという結果となつたのであるが、これらの点を併せ考えると、被申請人の行つた本件解雇の意思表示が真実会社代表者の意にかなつたものかどうかはともかくとして、被申請人の措置は極めて一方的で申請人にとつては酷である上、社会的にも不相当なものである。従つて本件解雇の意思表示は権利の濫用として無効である。

三とすれば、その余の申請人の主張を判断するまでもなく申請人、被申請人間には依然雇用関係が存続するというべく、そこで申請人が被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位を仮に定めるとともに、本件口頭弁論終結時である昭和四四年四月一四日までの未払賃金中二〇〇、〇〇〇円並びに右口頭弁論終結の翌日から同年八月三一日まで一ケ月三五、〇〇〇円(申請人本人尋問の結果から一ケ月の出勤日は二五日であることが認められる)の割合による金員の支払を命ずる限度でその必要性を肯認し、その余の部分を棄却することとし、民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。(宮本増)

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